北九州学研都市・運動脳科学研究所


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運動脳科学共同研究(国立九州工業大学 大学院生命体工学研究科 人間知能システム工学専攻)

1)国立九州工業大学 大学院生命体工学研究科 人間知能システム工学専攻 夏目季代久教授と高木淳也

2021年10月より、国立九州工業大学と空手を使用した運動脳科学に関する共同研究がスタートしました。

研究代表者は、九州工業大学 大学院生命体工学研究科 人間知能システム工学専攻 夏目季代久教授。

共同研究者は、NPO法人武道の学校 北九州学研都市・運動脳科学研究所所長 高木淳也です。

研究課題(北九州学研都市・運動脳科学研究所)

  • 脳科学分野
  • 空手を含めた武術における脳機能と脳波と脳血流測定
  • 空手を含めた武術における脳疾患リハビリと脳波と脳血流測定
  • 空手を含めた武術におけるサーカディアンリズムと脳波と脳血流測定
  • 空手を含めた武術における BDNF(脳由来神経栄養因子)の増加と脳血流測定
  • 空手柔軟(ストレッチ)における脳波と脳血流測定
  • 筋力トレーニングにおける脳波と脳血流測定
  • 小型の脳活動センサー、パルスアナライザーTAS-9、インタークロス等を用いて脳波測定、脳血流量、心泊数を計測する。
    『空手形(細分化)』を使用した運動は、脳全体のニューロンがかかわっており、手技足技を含めた空手技の多様な動きは、マルチタスクの原則であり、脳の可塑性が向上することが分かっている。

    これらを踏まえた上で、空手形を細分化し『ジョイント・バイ・ジョイントアプローチ*下記参照』理論を用いて、レジスタンス(筋肉への抵抗)トレーニングを組み込み、一般だけではなく、認知症や高齢者、障がい者におけるBDNF(脳由来神経栄養因子)の増加、うつ病や脳疾患におけるサーカディアンリズムの改善等、脳疾患におけるリハビリを研究する。
    また、空手柔軟(ストレッチ)時、及び瞑想時の脳波と脳血流測定を行い、身体及び精神に与える影響を研究する。

国立大学との共同研究においては、学会発表及び論文にて発表する


神経障害性疼痛分野「Exercise Neuro science for Pain Reduction(痛み軽減のための運動脳科学)」

  • 国内には2000万人を超える神経障害性疼痛(慢性疼痛)患者が存在するとされ、扁桃体、前帯状回、海馬、海馬傍回部位の灰白質体積が低下することが報告されている。

    厚労省がセルフケアとして推奨するエビデンス(科学的根拠)レベル「I」、推奨度「B」である「瞑想・マインドフルネス」を基軸に、過剰活動を行う「自律神経」に対し、頸椎1番を中心に緩和する「CP(chronic pain=慢性疼痛)セラピー」を考案し、神経伝達回復における脳機能研究をスタート。自らX線やMRIを使用して効果を立証している。


運動脳科学


上記写真は、MRIで撮影され、脳科学の権威 加藤俊徳脳内科医・医学博士(写真右)が開発した、国際特許技術『MRI脳 個性分析画像法』で詳細に診断された高木淳也の『脳』画像。加藤プラチナクリニック

注目すべきは、左脳に示されている右足部分である(写真左赤枠)。

過酷なトレーニングによって発達した『脳機能』は、左脳の右足部位が台形になるほど酸素代謝が活性化されている。空手や筋トレの効果的な訓練プログラムには、身体部位のみならず、脳機能にも鮮明に痕跡が残されていた。「運動効果」の立証である。

運動効果は、東京大学や筑波大学でfMRI(functionalmagnetic resonance ima ging)を使用した左右の運動前野、上側頭回、頭頂葉などの脳血流量でもその効果は確認されているが、国際特許技術『MRI脳 個性分析画像法』を使用して診断する、脳内科医・医学博士 加藤俊徳医師の診断でも確認できている。MRIで撮影された脳診断画像は、814枚に及んだ。

今研究では、空手形を関節部位毎に細分化し、最小の運動量で効果の高い脳機能へのアプローチを計測する。未経験者においても複雑な動きを簡素化し、脳機能に刺激を与えてホルモンの増加や運動効果を促進する。

空手形細分化は、有酸素運動、無酸素運動を誘導し、前頭前野及び各運動野への血流量をアップさせ、ニューロンを活性化させる研究を行う。

畳1畳で行える空手形細分化は、最大心拍数を空手呼吸の形(ウォーキング相当)55~65%、空手基本の形(ジョギング相当)65%~75%、空手移動の形(ランニング相当)75%~90%とを目標値として設定されており、海馬周辺における神経発達も研究する。

高木が行う空手形細分化は、心拍数から運動強度を求める方法として、カルボーネン法 (220-年齢)-安静時心拍数)×運動強度(%)+安静時心拍数で求めている。

最大心拍数に関しては、「最大心拍数=220-年齢」で求める。高齢者の場合は、「最大心拍数=207-(年齢×0.7)」の式を用いる。

運動原理は、ジョイント・バイ・ジョイントアプローチ応用し、大きな動きに適しているモビリティ関節と、適していないスタビリティ関節を意識した空手形細分化としており、空手未経験者でも負担のない動きでマルチタスクを体験することができる。

これらの運動により、BDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌量が増え、ニューロンや毛細血管の再生が促進され、脳機能向上が図れるのかを研究する。

これらはリハビリにも応用できるため、空手形細分化運動による脳機能の発達が期待でき、幼少期には、脳機能発達を促し、中高年には生活習慣病を予防し、高齢者には認知症等を予防し、災害や環境問題に取り組める心身向上を図り、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献するを目的としています。



環境資源研究

  • 産業革命前 1750 年の 280ppm は、2013 年には 400ppm を超え、実に40%以上も増加しており、大気中の二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素は、過去 80 年間で前例のない水準まで増加している。

    1997 年から 2018 年までに行政指定資源物回収約 200 トン以上の家庭資源分回収を基に発生源を区別して「発生流れ」を研究し、一般家庭廃棄物削減と環境に配慮した処理事業の推進を図る。
  • 3Rを含めた一般廃棄物の「発生流れ」を調査し、加えておむつリサイクルの調査を行い一般家庭廃物削減(二酸化炭素濃度削減)を調査研究し、一般家庭廃棄物削減と環境に配慮した処理事業の推進を図る。


20年以上に及ぶ環境保全活動の中で回収した資源物は、200トンを超えており、家庭資源分回収を基に発生源を区別して『発生流れ』を研究し、一般家庭廃棄物削減と環境に配慮した処理事業の推進を図る。

3Rを含めた、リサイクル活動は、リサイクルが主流となっており、一般家庭廃棄物削減には至っていない。重要なことは『発生源』を把握し、『発生流れ』で対策を講じる必要がある。

加えて、新生児のみならず今後量産されるであろう高齢者が使用するおむつ使用量を調査し、リサイクルを促進して一般家庭廃物削減(二酸化炭素濃度削減)を調査研究する。


連載企画・脳科学の世界

運動脳科学研究者高木淳也が、日々の活動の中で感じたことを綴る連載企画がスタート。

運動脳科学研究者高木淳也の論説 仏教における期待

私は現在、武道と共に仏道に身を投じています。

禅道、山行に勤しみ、仕事で訪れた国内外では必ず寺社巡礼を行い、デビュー当時から40年間の歳月を迎え、寺社巡礼は800件を超えました。アクション俳優と言う仕事柄、生命と向き合う事が多く神仏に生命の感謝を祈願し、身を律してきました。

そのような中でより精進を高めたく、高野山真言宗宿老 傳燈大阿闍梨 大僧正池口恵観先生の門を叩き、護摩行修行に参加させて頂いています。


1)高野山真言宗宿老傳燈大阿闍梨大僧正池口恵観法主を師僧とし、護摩行を授かる高木淳也。池口恵観法主は、平成元年5月に前人未到の「百万枚護摩行」を成満した高僧。

この論説を認めようと思ったのも池口恵観先生との出会いが大きく、真言密教を脳科学の観点から研鑽したいと願ったからです。

武道に加えて、仏教の修行に身を投じようと思ったきっかけは、海外初主演作の撮影中に起きた事故でした。

19歳当時の私はとても未熟で、中国で行われた撮影のあり方に対し、余りにも無知で傍若無人でした。

パスポートを取り上げられ、長期間宿舎において待機指示を強いられ、当時の政治事情に巻き込まれた撮影隊は為す術もなく撮影の中断に追い込まれます。

私達の仕事は、体の管理が重要で、慣れない食事と水は体力だけでなく、気力も奪って行くのです。トレーニングの許可も下りず、体重増加を恐れて食事すら摂らなくなり、周囲への配慮や自尊心も失っていきます。


2)中国・香港合作映画(当時)「忍者&ドラゴン」撮影中に起きた事故により、19歳当時の高木淳也の運命は大きく変わった。

正に「煩悩」に振り回された私の精神は、判断力まで失い事故に見舞われます。取り返しのつかない事故でした。

3)簡易的なダンボールで作られたダイビングマット。10m程からダイビングし、ダンボールの隙間に着地して右足は70%近くの機能を失う怪我に見舞われる。

怪我と痛みを隠し通して、最後まで撮影を撮り終えて、帰国した病院で告げられたのは「再起不能」でした。

長期間に渡り入院を強いられ、肉体的、精神的に追い込まれた私を救ったのが、4歳から始めた空手でした。

改めて「精神鍛錬」とは何かを問い、仏教の真髄である「煩悩」と向き合うことになるのです。

元来空手道は、仏教の影響を多大に受けており、1929年(昭和4年)に船越義珍(松濤館流開祖)が師範を務める慶應義塾大学唐手研究会発行機関誌において、般若心経の「空」の概念から、「唐手」を「空手」に改めると発表し、本土を中心に「空手」の表記が広まりました。

上記の経緯からも分かる通り、空手の修業過程は仏教の真髄を随所に取り入れており、ある意味「動的瞑想」であり、私が属していた実戦空手極真会館の100人組手などは「荒行修行」と言えます。

4)14歳で極真空手福岡県分支部指導員に任命され、過酷な鍛錬を行っていた高木淳也。骨折を含む怪我も多かったが稽古を休むことはなかった。

夏冬には、合宿と称して山に籠もり、滝に打たれ、山中を走り、厳しい空手修行に明け暮れます。これらは主に身体を鍛錬することを目的としており、脳機能への影響は極めて高いものでした。

「自己の弱さと向き合うこと」を信念とした鍛錬は、仏教の「煩悩滅却」から来ているものです。

では、「煩悩」とは何か ───。

脳科学において、「煩悩」を解説する時、DMN(Default Mode Network=デフォルト・モード・ネットワーク)の働きを無視することはできません。

DMNは、内側前頭前野、後帯状皮質、楔前部、そして下頭頂小葉などから成る脳回路であり、意識的な活動をしていない時に働く脳の活動状態を指します。

また、これらは学習および記憶処理、感情調節、自己言及性に関与する脳領域でもあります。

脳は体重の2%ほどの大きさにもかかわらず、身体が消費する全エネルギーの20%を消費し、更に脳が消費するエネルギーの大半は、DMNに使用され、脳全体の消費エネルギーの60~80%を占めているのです。


つまり、常に「雑念」が働いている状態であり、一日に6万語に相当する「無意識」が脳を支配しているのです。

これを心理学では、「マインド・ワンダリング(Mind Wandering)=心の迷走」と呼びます。

我々は良く似たような語彙で、「モンキーマインド」というワードを使用します。これもまた、仏教用語である「心猿」が由来なのです。

「心猿」とは、煩悩、妄念のために情意が乱れて落ち着かないことを猿の挙動がせわしく騒がしいのに例えて言う語彙ですが、代表的な四字熟語に「意馬心猿」があります。

ここでは、全ての「マインド・ワンダリング」を指すものではなく、過剰に働いた状態を記します。「マインド・ワンダリング」は、「記憶」と「想像」により、「過去の後悔」と「未来の不安」を無意識のうちに増大させて行きます。

それらが過剰に働くと、「過去の後悔」と「未来の不安」のみならず、知らず知らずに「妬み」や「嫉み」、「悲しみ」や「苦しみ」と言った無意識の感情に支配されていきます。

仏陀が説いた「四諦八正道」は、正にその真髄とも言えます。

2010年、ハーバード大学で2250人を対象に「マインド・ワンダリング」に関する大規模な行動心理調査が行われました。

「過去の後悔」と「未来の不安」に支配され、「今」を見失う「マインド・ワンダリング」の状態は、47%にも及び、1日の大半を「マインド・ワンダリング」に支配されているのです。

これらのエネルギー消費量は60~80%にも及び過剰な「思考状態」は心身共に疲れ果て、自律神経を蝕んでいきます。

近年の情報社会の構築は、1979年アナログの1Gから1993年にデジタルの2Gへと移行を始め、2001年に3Gが登場、2012年の4Gから本格的なスマホ時代へ突入します。

これらの技術革新は、10年単位の猛スピードで進み続け、進化するSNS等は、人々の暮らしを豊かにするだけでなく、誹謗中傷や個人情報の流出、デジタル難民など、ストレス社会の大きな要因となりました。

また、コロナウイルスの感染により世界中が、「恐怖」や「不安」、「死別」等による「マインド・ワンダリング」に支配され、エネルギー消費量の60~80%を優に超える「ストレス」を増大させました。その結果、精神疾患における罹患者が増えたのです。


現在、精神疾患を有する総患者数は約419.3万人を超え、特に認知症(アルツハイマー病)が15年前と比べ約7.3倍、気分・感情障害(躁うつを含む)が約1.8 倍、神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害が約1.7倍と増加割合が顕著であり、これらの疾患発症を機に様々な病気を誘発します。

では、何故「ストレス」が精神を蝕むのでしょうか ─── 。

ストレスを感じると「扁桃体」が活動し始め、それにより、「副腎」から「ストレスホルモン」が分泌されます。代表的な「ストレスホルモン」が「コルチゾール」です。

「ストレスホルモン」が分泌されると「心拍数が増え」、「血圧が上昇する」と言った「ストレス反応」を起こし、体に様々な影響を及ぼすのです。


「コルチゾール」は、脳へ辿り着き吸収されますが、一定の量を超えると「脳」の一部を「破壊」することが分かっています。

脳に溢れた「コルチゾール」が原因となり、「海馬」の神経細胞が蝕まれ、突起が減少したと考えられます。

つまり、「脳の破壊」です。これらは、人間の脳波や脳血流量からも確認できます。

うつ病や認知症の大きな原因として治療薬の開発が進められていますが、大きな効果を示したのが「マインドフルネス」でした。


MBSR(マインドフルネス ストレス低減法)は、1970年代初頭、ジョン・カバット・ジン(マサチューセッツ工科大学(MIT)にて分子生物学の博士号取得)が、禅の師による導きにより、瞑想をはじめたことがきっかけとなり普及を始めます。

様々な人々が取り組みやすいように「宗教性」を排除しますが、原点は「仏教」の「瞑想」です。

2007年には、マインドフルネスや瞑想の研究にアメリカ国立衛生研究所(NIH)が研究への出資を開始し、2009年に開始された技術的リーダーのためのマインドフルネスの年次集会の参加者には、Twitter、Instagram、Facebook(現Meta Platforms)の役員も参列しており、Googleにおいては社内にマインドフルネスのプログラムを持っているほど広く普及していきます。

マインドフルネスに取り組んだ著名人は多く、スティーブ・ジョブズ(Apple創業者)やビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)などもマインドフルネスに魅了された人たちです。

「マインドフルネス」は、「マインド・ワンダリング」で引き起こされる「過去の後悔」と「未来の不安」意識を「今」に引き戻します。

これらにより「コルチゾール」の分泌が抑えられ、ハーバード大学の研究により、8週間の「マインドフルネス・プログラム」実践により、海馬の灰白質が5%も増加していることが分かっています。

これらの行為により、ストレスでダメージを受けた海馬が回復する可能性が高いことが分かりました。そして、興味深いことに「ストレスホルモン」の元凶である扁桃体が5%も減少していることも分かりました。

-より効果を高めるために-

私の空手指導歴は、14歳にまで遡ります。当時の極真空手福岡県分支部指導員として指導を始め、本年で43年目を迎えますが、数多くの門下生を見届けてきました。

発達障害や障がい者の方々とも多く接してきた中で私が感じることは、その領域に関わる文化や歴史、作法も学んだ方がより良い結果が生じるということです。

例えば、空手をジャージで学ぶ者と空手衣を身に纏い学ぶ者とでは、習得するものは大きく異なります。脳の反応領域が縮小化され、空手の歴史や文化に興味を抱く精神が異なるからです。

また、私の研究では、面白い結果が確認されています。私は空手の技を放つ時に、「音」を確認します。空手衣が動きによって擦れる「音」です。これを私は、「空手衣が鳴く」と表現して、技上達のために指導します。空手衣が鳴くほど技が速く、有段者の「音」は他を圧倒します。

そして、空手衣を身に纏っている時と纏っていない時とでは、脳波の出力が異なるのです。「音」は、作法からなるもので、作法は伝統文化なのです。

私たちが稽古時に身に纏う空手衣は、神道の影響を受けており、私は門下生に修験道者や千日回峰行者と同じ精神で身に纏いなさいと教えます。

極真空手の創始者大山倍達館長は、他流派との組手で負けた場合は、「腹を切れ」と檄を飛ばすほどでした。

これらは、正に千日回峰行における「途中で行を続けられなくなった時は自害する」の精神であり、「死出紐」と降魔の剣(短剣)、三途の川の渡り賃である六文銭、埋葬料10万円を常時携行し、未開の蓮華の葉をかたどった笠をかぶり、白装束、草鞋履きを身に着けているのです。

このような歴史や文化は、脳機能の「神経可塑性=脳の機能や構造が変化すること」を刺激します。

1990年代頃までは、成人後の「脳細胞は死滅していく」と考えられていました。

しかし、神経画像技術が発達し、fMRI(機能的磁気共鳴装置)などの医療測定器が開発されたことにより、この考え方は覆りました。

近年の脳科学では、何歳になっても「神経可塑性」が働き、学習や経験を重ねる度に脳は新しいネットワークを形成して発達していくことが明らかになってきたのです。脳は千数百億個の神経細胞が互いにつながりあい、神経回路を構築することで特定の機能を発揮します。

つまり、「体験学習」することが、「神経可塑性」を最も刺激し、働かせることになるのです。コロナ禍で「オンライン学習」が広がりましたが、やはり人間は、現場で匂い、音、空気感を感じて学ぶことが重要です。

マインドフルネスから「宗教色」を外した起因は、容易に理解できます。真の宗教を理解するには多大なる労力を要するからです。

しかしながら、その重要性を無視し続ければ、何時までも宗教の理解は得られません。真の宗教を学んでこそ「神経可塑性」を働かせることになり、真の瞑想を体感することになるのです。

5)池口恵観法主が住職を務める高野山別格本山清浄心院。高木淳也も護摩行者として修行に励んでいる。火炎は時に300度を超え、顔面は火傷に見舞われるほど過酷である。

私は現在、恵観先生の門を叩き、真言密教の「文化」と「歴史」、「伝統」を授かっています。動機は、仏教の中でも過酷を極める荒行である護摩行に興味を抱いたことでした。

そして、艱難辛苦さえも卓越した高僧から授かりたいという強い願いでした。

寺院に赴き、作法を習い、密教の真髄である秘密の教義と儀礼を師資伝承によって伝えていく仏教に触れた時に脳機能は反応します。

密教の真髄解釈に動き出した時に、恵観先生が説かれる「事相」を究める精神が宿るのです。

私は、「マインドフルネス」を否定するつもりはありません。素晴らしいエビデンス(科学的根拠)が多く発表され、脳科学は大きな変化を遂げました。

しかし、根底にあるものは、仏教の「瞑想」です。恵観先生が説かれる「事相」とは、真言密教の教示である「事」と「理」であり、「事」は呪術、「理」は学問を指します。

先ずは、「理」である密教学問を脳がより正しく学ぶことにより、「神経可塑性」は発達を始めます。文化が何故存在するのかを生命が教えてくれるからです。

私が恵観先生の門を叩いたもう一つの理由は、恵観先生の「特殊能力性」を感じたからです。

「特殊能力」に関しては、次章で記しますが、これは「事相」の「事」である「呪術」にも関連します。ここでは、宗教色ではなく、「呪術」のイメージから連想する「カルト色」を排除し、脳科学の観点から研鑽したいと思います。

恵観先生は、室町時代から500年以上続く真言密教修験の第十八代目の相承者で、薩摩の国の傳燈法師であられ、平成元年には、前人未到の100日間に渡り、秘法「100万枚護摩行」を御修行された高僧です。

プロフィールだけでも驚くばかりですが、私が何より驚いているのは、86歳の年齢にして、揺るぐことのない過酷な護摩行を1ヶ月単位で、鹿児島、高野山、江ノ島で収められ、その他にも信者の個別相談を行い、移動なども含めるととてつもない身体エネルギーと精神エネルギーを消耗する労力です。

毎月届く会報には、びっしりと時事から密教に関する執筆で埋め尽くされ、本の執筆、加筆もあわせるととてつもない分量に只々圧倒されてしまいます。

これら全てを「行」として行う姿勢に「真の修行」の意味が垣間見え、祈祷を授かる真理を感じたのです。そして何より、人生経験が豊富であり、幾多の辛苦を乗り越えた生き様は、何よりも信者の苦悩を救う筈です。

私は講演で必ず伝えることがあります。「師を求めるならば、何よりも苦節した方を探しなさい。厳しさと優しさ、そして何よりも智慧を携えている」と。

「三年勤め学ばんよりは、三年師を選ぶべし」という中国のことわざがあります。「三年かけて独学で勉強するより、三年かけて師匠を探したほうが賢い」という意味ですが、学問の真を説いたものです。

そして、本年8月に恵観先生が上梓された「秘密時相」を拝読し、科学による解明を行いたいという気持ちが強くなったのです。


その内容は、正に「煩悩」を修行によって駆逐し、脳科学で言えば、「マインド・ワンダリング」をコントロールする「呪術」を身につけることになるのです。そして脳科学の観点から「呪術」も「特殊能力」というカテゴリーで解明されるものと確信しています。

― 特殊能力 ―

私達武道家を含め、「技」を極めた者は、「特殊能力者」と表現されることがあります。これらは「超能力」と混合され、古くはシッディ、神通力とも呼ばれていますが、その内容は全く異なります。

私は、運動脳科学研究者として、敢えて「超能力」と言う語彙を控えます。

これらの表現が胡散臭く捉えられる背景には、「騙せる」要素が多く存在したからです。

古くは、スプーン曲げやESPカード(超感覚的知覚(Extra Sensory Perception)による騙しのテクニックが横行した時代もあります。

しかし、これら「特殊能力」も科学の進歩によって解明されつつあります。

6)写真上段-幼少期からの空手の修練により、卓越した蹴り技を放つ高木。写真中央 ― 左脳運動部位が「台形」になるほど発達。写真下段左-アメリカUFCジム演武において、バットを手刀で切断。写真下段右-瓦10枚を寸勁(3.03cmの高さから)で破壊。

7)スタントマンやCG、ワイヤー等、あらゆる撮影技法を排除して、生身の身体で挑むことを信条とした、故千葉真一が創設したアクション集団、JAC(ジャパンアクションクラブ)は、正に特殊能力を見せつけた。写真は、高木が足の怪我後、復帰して挑んだ生身のアクションシーン。これら命懸けの撮影に備えて神仏巡礼を欠かさなかった。

それは、私達が「技」を放つ瞬間の脳の働きです。勿論、研究課題は多く残っていますが、「絶対音感」や「スーパー暗算」、「四色型色覚(テトラクラマシー)」等は、脳波が測定できる種目です。

脳機能が一体どのような働きを行っているのか、大変興味深いものです。そう遠くない時期に、エンパス(エンパシー)やサイコメトリー(残留思念感応)等も計測できる時代が来るでしょう。

私は野球を観ませんが、大谷翔平選手のニュースや試合は欠かさずといって良い程見入ってしまいます。

その理由は、彼の「特殊能力」です。極めて高い身体能力、精神力、人間力は、脳機能測定においても顕著に現れることでしょう。

実は、これらを計画性の下に、彼は作り上げたと言っても過言ではありません。


これは、彼が高校一年生の時に高校時代の監督・佐々木洋氏から教えられ、作成したマンダラチャート(マンダラート)です。

マンダラートとは、密教に登場する曼荼羅模様に由来するもので、曼荼羅とアートを組み合わせた造語のことで、アイデアを整理し、言語化しながら目標達成までの具体的なプロセスを可視化するチャート表ですが、「宗教色」は色濃く残っています。

これらの思考が何故「天才」を作り上げていったのかは、容易に説明が付きます。

自らの目標を可視化し、DMN及び「マインド・ワンダリング」を実に見事にコントロールしています。まるで修行者が曼荼羅に祈るように大谷選手もこれらを活用したのでしょう。

体力強化や技術向上はさることながら、掃除から礼節、人間性にまで記されており、特にメンタルと人間性が強調されています。

彼は、「マインド・ワンダリング」に支配される前に、これらを活用して、エネルギーの低下を防ぎ、継続性を高めるメンタルを含むトレーニングを続けていたのです。

これが、私が定義する「特殊能力」です。

このような倫理観の中で、私は恵観先生の護摩行に「特殊能力」を感じています。行者として磨き上げた匠の「加持祈祷」です。

加持とは、密教では病気平癒、災難を除くため、仏陀の加護保持を祈祷する秘法の事を指します。

しかし、その本懐は複雑です。弘法大師空海が開いた密教の本領は「視覚」、「聴覚」、「臭覚」、「味覚」、「触覚」といった五感では捉えることのできない神秘の感覚・神秘体験にあり、密教の仏や菩薩たちは、宇宙(法界)の真理そのものであると教示しています。

真言密教の修法を三密加持と呼びますが、仏の「身」、「口」、「意」の秘密の働き、即ち「三密」と行者の「身」、「口」、「意」の働きとが互いに「三密加持(感応)」し、仏と行者の境界線が消えて一体となる境地を教示しています。

弘法大師空海は、このあり方を「仏が我に入り我が仏に入る」と説き、「入我我入」と称されています。

恵観先生が、護摩行において「続けておれば、火の中に入ってしまう。自分が光か、光が自分か分からなくなる」と述べていますが、真言密教の教えは、宇宙の法則であり、正に宇宙に「存在」するための修行であると私は捉えています。

そして、それはある意味、科学さえも太刀打ちできない神秘の領域を意味します。

察すれば、荒行を極めた密教行者は、加持祈祷時にどのような脳機能の働きしているのかを伺い知ることができるのです。

武道を極めた者達が、活法をルーツとした柔道整復師や鍼灸師、整体師として、蘇生術を学びます。しかし、活法を授ける者は現代社会には、私の知りうるところ存在はしません。

活法のルーツは戦国時代にまで遡ります。当時の武術には人を殺める「殺法」と蘇生を目的とする「活法」が存在していました。

活法は、真言密教同様に秘伝・口伝とされてきたため、歴史的な詳細や経緯は分かっていません。

では、何故「存在」しないのか ───。

明治時代になると、科学や医学が西洋から入ってきます。病気平癒の祈祷をするよりも、医学に頼った方が手っ取り早く、病は治癒するので、明治政府も医学を推進して行きます。

これは、武道も同様で政府の弾圧や時代の流光に飲まれて行きます。これに伴い「修練」を行う者達も激減して行きます。

しかし、現世は甘くなく、不治の病や医療ミス、薬の副作用、精神疾患や癌が蔓延し、コロナ禍においては、一部の医療の崩壊も見られました。

立ち上がったのは、「生態エネルギー」に溢れた医師団や医療従事者、徒手療法家達です。

神仏への参拝も増大し、コロナ禍にも関わらず大勢の参拝者で溢れる姿が幾度となくニュースで放映されました。

では、科学で言う「生体エネルギー」とは何か ─── 。

元素周期表でも確認できますが、人体には、マグネシウムとカルシウムが存在します。

当然、それぞれの元素には電位差が生じているため、マグネシウムはプラスの電荷、カルシウムはマイナスの電荷を帯びています。

人体が緊張状態になり、筋肉に力が入るとマイナスの電荷であるカルシウムが集まります。

人体が緩和状態であり、筋肉が緩んでいる状態では、プラスの電荷であるマグネシウムが集まります。

原理は異なりますが、脳波測定も同様の意味合いを持ちます。つまり、脳機能の元素に基づいた、プラスとマイナスのエネルギー理論です。

これらの原理に基づき巧みにこのエネルギーを使用して、格闘において人を倒したり、試し割りを行ったり、あらゆるスポーツにおいても技を極めた者は、巧みにこのエネルギーを使い分けています。

徒手療法で例えるなら、身体の不調を訴える者は、往々にして筋肉に硬結が見られ、常に緊張状態でバイタルも乱れており、元素に基づいたマイナスが多く発生しています。

ここにプラスのエネルギーを巧みに使用できる者が、「手技」を行えば硬結は瞬く間に弛緩します。

つまり、科学的見地からも説明が行える者を「特殊能力者」と呼ぶことができるのです。

仏教及び密教において、長い歴史の中で培われた「秘法」は、修行によって形成されたものであり、恵観先生が行う「加持祈祷」においても、科学で示された武道同様、強い生態エネルギーを感じるのです。

全ての世界において、修練を積み、卓越した者はこれらの原理原則を「無意識」に習得し、「技」として使用している可能性は高く、研究に挑みたいと思った次第です。

これらが現代社会における新しい仏教の解釈理論の一つになることは間違いありません。

秘密時相は、正にその核心の著と言えます。


8)池口恵観法主から、運動脳科学研究でも測定された「音」を含めた「気=生体エネルギー」を感じたと述べる高木淳也。

「マインドフルネス」を含め、正統派宗教の「修行」は、医学や科学を超えて人類を救う要になると信じて止みません。

現に神経障害性疼痛分野(慢性疼痛)に関してのセルフケアにおける「瞑想」、「マインドフルネス」のエビデンス(科学的根拠)レベルでは「I」、推奨度は「B」判定を厚労省科学研究費に伴う研究結果として提出されているのです。

私が進める運動脳科学研究を基に考案した、CP(chronic pain=慢性疼痛)セラピーも、管理医療機器を使用した過剰に活動している「自律神経」を、「瞑想」と頚椎一番を中心に緩和するセラピーにより、多くの人々の改善を図っています。

今後は、厳しい修行に耐えた「行者」の「力」が科学の力においても認知され、その方々が世界を救う先駆者となることを信じて止みません。

その事を願い、私自身の修行を通じて不定期ですが論説をお届けしたいと思います。

― 次回は、運動脳科学者から見た「呪術」をお届けします ―

  • 北九州学術研究都市 運動脳科学研究所所長
  • 国立九州工業大学運動脳科学共同研究運動脳科学研究者
  • NPO法人武道の学校理事長 空手範士八段
  • ハワイ陸軍国家警備隊米兵コーチ
  • ハワイUFCジムコーチ
  • 高野山真言宗別格本山清浄心院護摩行者
  • (宗)修練寺院心美庵武道僧侶
  • 高 木 淳 也